
はじめに

アワーズイン阪急様は、1,100室のシングル館と288室のツイン館、計1,388室の客室を有する大規模ホテルです。
シングルとツインでは利用されるお客様や需要特性も異なるため、それぞれの動きを捉えた料金運用が求められます。こうしたなか、固定料金での販売から変動料金制への移行をきっかけに、本格的なレベニューマネジメントに取り組んできました。
一方、料金設定に必要な情報が増えるにつれ、料金判断や日々の作業が特定の担当者に集中することが課題となっていました。
こうした課題を背景に導入したのが、AIを活用したレベニューマネジメントシステム「D+」です。現在は、日々の料金設定業務の効率化を進めながら、アワーズイン阪急様が重視する高い稼働率も意識した、より施設の方針に合った料金運用を進めています。
今回は、販売予約課の高橋部長にインタビューし、「D+」導入までの背景や導入の決め手、導入後に生まれた変化、実際の運用を通じて進めてきた改善についてお話を伺いました。
固定料金から変動料金へ。
料金運用そのものを見直す。

アワーズイン阪急様では、以前は宿泊日にかかわらず基本的に同じ料金で販売する固定料金制を採用していました。
しかし、ビジネス利用が中心となる平日と、観光需要が高まる週末とでは、客室需要に違いがあります。さらに、季節やイベント、予約の入り方によっても需要は変化します。
こうした市場の動きに合わせて、より柔軟に料金を設定できるようにするため、コロナ禍を経て変動料金制への移行を進めました。その前段階としてPMSなどのシステム環境を刷新し、必要に応じて料金を変更できる基盤を整備。その後、独自に作成したスプレッドシートを活用しながら、担当者自身が料金を調整する運用をスタートしました。
料金判断では、現在の予約数だけを見るのではありません。予約がどの程度のペースで増えているのかというブッキングカーブや前年実績、周辺競合施設の料金など、複数の情報を確認しながら総合的に料金ランクを判断していました。
また、シングルとツインでは利用されるお客様の傾向も異なります。シングルではビジネス利用、ツインでは週末を中心とした観光利用が多いなど、それぞれの需要特性を踏まえて料金を考える必要がありました。
経験が求められる料金判断。
課題は担当者への業務集中と属人化。
変動料金制によって需要に応じた料金設定ができるようになった一方、日々の運用では新たな課題も生まれました。
複数のデータを確認したうえで、「料金を上げるのか」「現在の料金を維持するのか」「予約の動きを見ながら料金を下げるのか」を判断するには、担当者の経験や知識が必要です。
担当者による料金の見直しは週2~3回程度行われ、その都度、予約状況や競合料金などを確認しながら料金を調整していました。さらに、料金管理に使用していたスプレッドシートについても、関数の修正やメンテナンスができる担当者は限られていました。
そのため、料金を変更する作業だけでなく、どの情報を確認し、どのような考え方で料金を判断するのかというノウハウも、特定の担当者に集中していました。
担当者の経験を活かしながら、その判断を仕組みとして共有し、特定の人に依存せず継続できる料金運用をつくること。
これが、レベニューマネジメントシステムを検討する大きな理由となりました。
導入の決め手は、
実際の料金運用への組み込みやすさとスピード感。

システム選定では、単純にAIが料金を提示できるだけではなく、日々の料金運用の中で実際に使い続けられることを重視しました。
「D+」では、予約状況や過去実績、競合施設の料金、イベントなどのデータを活用しながら需要を予測し、料金を算出します。加えて、サイトコントローラーと連携し、算出した料金を実際の販売料金へ反映できることもポイントとなりました。料金を判断した後に、別のシステムへ手作業で入力するといった負担を減らし、料金の算出から更新までを一連の運用として扱えるためです。
もうひとつ、導入の決め手となったのが、検討段階から導入までの対応スピードでした。
確認事項や質問に対する回答が早かったことに加え、導入に向けた設定や準備もスムーズに進行。さらに、アワーズイン阪急様がどのような料金運用を目指しているのか、その意図を汲み取りながら対応が進んだ点も評価いただきました。
「最初にお話しいただいたときからのスピード感は、かなりよかったと思います」
システムの機能だけでなく、実際の運用をイメージしながら短いサイクルで確認・調整を進められたことが、導入を後押しする要素となりました。
さらに、需要特性が異なるシングルとツインについては、それぞれの特徴を踏まえて料金を算出できるよう個別にモデルを構築。これまで担当者が複数の情報を確認しながら行ってきた料金判断を、継続的にデータを活用しながら行える環境を整えました。
日々の料金確認を絞り込み、
料金設定業務の負担を軽減。
「D+」導入後、大きく変化したのが担当者の日々の業務です。
従来は、予約の入り方や競合料金などを自ら確認し、多くの日程について料金を判断していました。現在は「D+」が継続的に需要を捉えて料金を算出するため、担当者はすべての日程を同じように確認するのではなく、特に確認が必要な日程を中心にチェックできるようになっています。
「私としては、料金設定に関する業務がかなり減りました。今は、ほとんどピンポイントでしか見る必要がありません」
料金設定にかかる負担が軽減されたことで、担当者がその他の業務にも時間を使いやすくなりました。
単に料金計算をシステムへ置き換えるだけではなく、「どこを人が確認し、どこをシステムに任せるのか」という仕事の進め方そのものにも変化が生まれています。
「担当者だけが分かる業務」から、
他のメンバーも数字を見る運用へ。
「D+」の導入は、担当者個人の業務負荷だけでなく、施設内でのレベニューマネジメントへの関わり方にも変化をもたらしました。
導入前は、料金判断に必要なデータや、その背景にある考え方が特定の担当者に集中していました。レベニューマネジメントは、単純な作業手順だけでなく、予約の入り方や競合料金、過去実績などを見ながら判断するノウハウが求められるため、その考え方を他のメンバーに言葉だけで引き継ぐことは簡単ではありません。
担当者自身も、「ノウハウを誰かに教えようとしても、なかなか言葉にできない」と感じており、担当者が不在になった場合でも継続できる運用をつくることが課題のひとつでした。
「D+」導入後は、共通の画面を通じて予約状況や売上、料金の動きを確認できるようになり、他のメンバーもレベニューマネジメントに関わる機会が増えています。
「今まではレベニューマネジメントに携わるメンバーが少なったのですが、徐々に関心を持つ人たちが増えました。D+を入れたことをきっかけに、数字を気にしたり、興味を持ったりするきっかけになったと思います」
実際に同じデータを見ながら業務に関わることで、他のメンバーに料金運用を任せられる場面も増え、数字を見る感覚を養うことにもつながっています。
特定の担当者が持つ経験を、そのまま誰かに引き継ぐのではなく、共通のデータを見ながら、複数人で判断できる環境をつくる。
「D+」の導入は、属人化を抑えるだけでなく、次にレベニューマネジメントを担う人材を育てるための土台づくりにもつながっています。
管理できる範囲が広がり、
予約受付を半年程度先まで延長。
業務負荷の軽減によって可能になった取り組みのひとつが、予約受付期間の延長です。
以前は、宿泊日の約3カ月前から予約を受け付けていました。予約受付期間を延ばせば、それだけ料金を管理しなければならない日程も増えます。担当者が一つずつ料金を確認する運用では、管理対象を増やすこと自体が新たな負担になります。
「D+」導入後は、先の日程についてもシステムを活用しながら料金を管理できるようになり、現在では5か月から半年程度先まで予約受付期間を広げています。
早い段階から予約を受け付けることで、先々の予約動向を把握しやすくなるだけでなく、継続的に利用されるお客様にとっても、早めに予約できる選択肢が生まれました。
業務効率化が、単なる作業時間の削減にとどまらず、販売方法そのものを広げることにもつながっています。
「高稼働を重視する」という方針を「D+」に反映

「D+」の導入を支援する中で、アワーズイン阪急様にとって「高い稼働率を維持すること」が重要な運営方針であるということが分かってきました。
「D+」では、予約の入り方や残室状況、競合施設の料金、過去実績などのデータから需要を捉え、収益性を考慮した料金を算出します。一方、アワーズイン阪急様では、客室単価だけを追うのではなく、高い稼働率で着地することも重視しています。そのため導入当初には、RevPARの最大化を基本とする「D+」の料金算出と、施設として理想とする料金運用との間にギャップを感じるケースもありました。
これは、どちらかが正しい、間違っているということではなく、「どの指標をどの程度重視して料金を決めるのか」という料金運用に対する考え方の違いです。
そこで、システムの推奨に施設側が一方的に合わせるのではなく、「D+」がデータから捉えている需要と、アワーズイン阪急様がこれまでの運用で培ってきた考え方の双方を確認しながら、料金算出のあり方について継続的にディスカッションを重ねました。
実際の運用を通じて、「どのような状況では単価を上げるのか」「どのタイミングから稼働を取りにいくのか」といった考え方を整理することで、アワーズイン阪急様に適した料金運用の条件がより明確になっていきました。
データと施設方針の双方を踏まえ、
料金算出モデルを調整。
こうしたディスカッションを踏まえ、「D+」では実際の予約状況や販売結果を確認しながら、アワーズイン阪急様の方針に適した料金算出となるようモデルの調整を進めました。
高い稼働率を重視するといっても、単純に料金を下げて客室を埋める運用ではありません。
特に先の日程では、予約の立ち上がりが弱いからといって料金を動かし続けると、必要以上の値下げにつながることがあります。そのため、先の日程については料金を大きく動かしすぎず、予約の入り方を見ながら調整しています。
一方で、予約の立ち上がりが早く、需要の強さが見える日については、料金を上げる判断も行います。
導入当初には、「D+」の推奨料金を高いと感じる場面もありましたが、実際の市場や予約状況を振り返るなかで、需要の強さを捉えた判断だったと感じられるケースもありました。
こうした運用を通じて、アワーズイン阪急様が重視する高い稼働率と、「D+」がデータから捉える需要の双方を確認しながら、より施設に合った料金運用へと調整を重ねています。
高い稼働率を維持しながら、
収益性とのバランスも追求。
「D+」導入後も、アワーズイン阪急様では高水準の稼働率を維持しています。
もともと高い稼働率を実現している施設だからこそ、目指しているのは単純な稼働率の上昇ではありません。
必要以上に料金を下げるのではなく、需要が強い日にはその強さを料金へ反映しながら、施設として大切にしている稼働水準も維持する。
こうした考え方のもと、高い稼働率を意識しながら、需要に応じて適切な単価を確保する料金運用を進めています。
次のテーマは、 「なぜこの料金なのか」をより分かりやすくすること

料金設定業務の効率化が進む一方、今後さらに改善したいテーマもあります。
そのひとつが、料金判断の「説明可能性」です。
「D+」では、需要予測や競合施設の料金、予約の入り方、イベント、稼働状況など、料金算出に関連するさまざまな情報を確認できます。
今後は、そうした情報を個別に確認するだけではなく、
「なぜこの料金が推奨されているのか」
を、より端的に把握できることへの期待も寄せられています。
担当者自身が判断根拠を確認しやすくなるだけでなく、他のメンバーへ料金設定の背景を共有する際にも活用できるためです。
料金を算出することから、その料金の意味を組織で理解できる状態へ。レベニューマネジメントをさらに定着させていくための、次のステップです。
今後に向けて:
人が見るべきところに、より集中できる料金運用へ
アワーズイン阪急様では、今後も実際の運用結果を確認しながら、「D+」を活用した料金運用を改善していきますが、現在も、電話予約を含む施設独自の料金管理など、人による対応が必要な領域は残っています。
今後、こうした運用との連携や料金更新の自動化がさらに進めば、担当者が日常的に対応する作業をより減らしていくことができます。
一方で、すべての判断をシステムに任せること自体が目的ではありません。
需要が大きく変化した日や、施設として特別な判断が必要な場面など、人が確認すべきポイントに時間を使える状態をつくること。そして、特定の担当者だけに頼るのではなく、組織として数字を見ながら料金運用を続けられる状態を目指すこと。
アワーズイン阪急様では、これまで培ってきた料金運用の考え方とAI・データを組み合わせながら、より持続可能なレベニューマネジメントを進めています。
おわりに
アワーズイン阪急様の取り組みは、単に料金設定をAIへ置き換えたものではありません。
固定料金から変動料金へと販売方法を変え、担当者の経験を中心に行っていた料金判断を仕組み化。そのうえで、実際の予約状況や販売結果を確認しながら、施設独自の運営方針を料金算出へ反映してきました。
「D+」導入によって、日々の料金管理にかかる負担を軽減するとともに、他のメンバーも予約や売上などの数字に触れる環境が生まれています。
人が培ってきた料金運用の考え方と、AI・データによる需要判断を組み合わせながら、施設に合った料金運用をつくっていく。
ダイナミックプラスでは、それぞれの施設が大切にしている販売方針や運用方法も踏まえながら、より実践的で持続可能なレベニューマネジメントを支援してまいります。
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